行政書士試験の最難関「行政法」を、論理とビジュアルで整理する『絶対合格!行政書士ビジュアル講座』。
新米の生徒「コタロー」と、ベテラン講師「ワンブル先生」による完全オリジナル講義がスタートします。
最初のテーマは、受験生が最初に悩む「行政法なのに、なぜ民法のルール(登記や契約など)が出てくるの?」という混乱を解消する前編です。試験で頻出する「ひっかけパターン」の裏にある理屈を、人間社会のリアルな事例で整理していきましょう。
行政法の基本原則と行政をめぐる法律関係①
行政法に「民法の常識」は通用するのでしょうか。今回は、行政法の基本原則と行政をめぐる法律関係を学ぶ入口として、公法と私法の境界線を見ていきます。
コタロー
先生、首がもげそうです! 行政法の過去問を解いているのに、いきなり「民法の対抗要件(登記)」とか「契約は有効か」とか出てきて、頭の中がぐちゃぐちゃだよ! 行政法って、国や役所の「お上のルール」を勉強する科目じゃないの?
ワンブル先生
コタローくん、そこは多くの受験生がつまずくところだよ。国や地方自治体は、常に「お上」として振る舞っているわけじゃない。時と場合によっては、私たちと同じ立場に降りてくることがあるんだ。今日は、国が「権力」を使っているのか、それとも「債権者や契約相手」として動いているのか、その見極め方を整理しよう。
ここだけチェック
行政法で民法が出てきたときは、「行政法なのに民法が混ざってきた」と慌てる必要はありません。まず、国や自治体がどの立場で動いているのかを見ます。
チェックリスト
- 国や自治体は、公権力として動いているのか
- それとも、私人と同じ土俵で競っているのか
- 公法上の取締りと、私法上の契約を混同していないか
- 一般法である民法より、特別法が優先する場面ではないか
登記の適用: 国は公権力か、ただの債権者か
不動産の世界では「登記(名義変更)を先にした方が対抗できる」というのが民法177条のルールです。いわば、土地に自分の名前の旗を立てた者勝ちですね。
では、国が相手のとき、この旗立てルールは通用するのでしょうか。
自作農創設特別措置法に基づく農地買収処分
戦後の農地改革で、国は地主から強制的に農地を買い上げ、小作人に分け与えました。
これは国が一方的に国家権力を行使して、財産権を移転させる行為です。対等な売り買いではありません。
こうした強制的な権力行使の場面では、「登記がないから第三者に対抗できない」という民間人同士のルール(民法177条)が入り込む余地はないと解されています。
租税滞納処分
一方、税金を払わない人の不動産を、国(税務署)が差し押さえる場合はどうでしょう。
一見、権力を使っているように見えますが、これは滞納された税金を回収するために、財産から満足を得ようとしている場面です。
もし、その不動産を狙っている別の民間債権者(銀行など)がいたら、国といえども「同じ土俵にいるライバル」にすぎません。だから、ここでは国も特別扱いされず、民法177条が適用されます。つまり、国であっても先に差押えの登記を済ませておかないと、他の民間人に対抗できないことがあります。
コタロー
なるほど! 「権力で強制的に財産権を移転させる農地買収」か、「債権者として競う税金の回収」かの違いで、登記がいるか・いらないかが真逆になるんだね。どっちの顔で来ているかを見抜くのがコツか!
公法の取締りと、私法の契約のズレ
次は、行政上のルール違反と、私人間の契約の関係です。
保健所の許可を得ずに、お弁当を販売している無許可の屋台があったとします。これは食品衛生法という行政の取締りルールに違反しています。
では、コタローがこの屋台でからあげ弁当を買った売買契約は、法律違反だから無効になるのでしょうか。「無許可のお店だから、代金は払わなくていい」と言えるのでしょうか。
結論は、売買契約は当然には無効になりません。
食品衛生法は、無許可営業を行政が取り締まるためのルールです。営業者が行政上の処分や罰則を受けることはあり得ます。しかし、それだけで、客との個別の売買契約まで当然に無効になるとは限りません。
ワンブル先生
お店が行政から営業停止のペナルティを受けることと、お客さんとの個別の売買契約が守られるかどうかは、次元が違う話だよ。ルール違反のお店から買ったからといって、代金を払わなくていいわけじゃないのさ。
民法が行政側に出張する場面
反対に、民法の考え方が行政側の問題に使われることもあります。
典型例が、地方公共団体の長による自己契約です。
たとえば、ある町の町長が、町を代表する立場でありながら、同時に自分が経営している会社の代表者でもあったとします。その町長が、町と自分の会社との間で公共工事の契約を結んだらどうなるでしょう。
これは、自分の利益と町の利益がぶつかる場面です。町が損をして、自分の会社が利益を得るような利益相反が起きる恐れがあります。
民法では、こうした利益相反を防ぐため、自己契約や双方代理に関するルールを置いています。行政の場面でも、こうした利益相反を防ぐ必要があるため、民法の考え方が類推適用されることがあります。
特別法は一般法に優先する
最後に、法律同士の優先関係です。
民法234条には、建物を築造するときは境界線から一定の距離を保つというルールがあります。
一方、建築基準法65条では、防火地域など一定の場面で、耐火構造の建物を隣地境界線に接して建てられることを前提にしています。
このとき、民法の一般的なルールと、建築基準法の特別なルールがぶつかります。
ここで使う考え方が、「特別法は一般法に優先する」です。
ワンブル先生
民法は広く使われる一般的なルールだね。でも、特定の目的のために作られた特別な法律があるときは、その特別ルールが優先することがある。行政法では、この優先関係もよく問われるよ。
判例で整理する: 農地買収と租税滞納の違い
ここで、試験で狙われやすい農地買収と租税滞納の違いを、判例の流れとして整理します。
農地買収処分について、最高裁は、これは私法上の売買とは異なる公法上の行為であり、民法177条の適用はないと判断しました。
一方、租税滞納処分については、国が租税債権を回収するために行動している点で、一般債権者と同じような立場にあります。そのため、民法177条の適用を受けると判断されました。
両者の違いは、国が「絶対に特別扱いされるかどうか」ではありません。
国が、公権力として一方的に行動しているのか。それとも、債権回収の場面で私人と同じ土俵に立っているのか。
ここが、民法適用の分かれ目です。
まとめ
行政法に民法が出てきたときは、まず「国や自治体がどの立場で動いているのか」を確認しましょう。
チェックリスト
- 農地買収処分は、公権力による強制的な買上げなので、民法177条は適用されない
- 租税滞納処分は、債権回収としての性質があるため、民法177条が適用される
- 行政上の取締り違反があっても、私人間の契約が当然に無効になるとは限らない
- 地方公共団体の自己契約では、民法108条の趣旨が類推適用されることがある
- 建築基準法のような特別法がある場合、民法の一般ルールより優先されることがある
コタロー
行政法に民法が出てきても、もう少し落ち着いて読めそう! まずは「国がどの顔で出てきているか」を見るんだね。
ワンブル先生
その通り。行政法は、暗記だけでなく、場面の性質を見分ける科目でもある。公権力なのか、対等な立場なのか。その軸を持って読むと、ひっかけ問題にも強くなるよ。
次回は、行政法における信義則などの一般原則や、公営住宅をめぐる特殊なルールを扱います。